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ドナー体験記

※1 骨髄移植ドナー候補体験記

骨髄バンクに登録して7年目。
半年ほど前、骨髄移植のドナー候補に選ばれました。
貴重な経験をしたので、当時の様子をつらつらと記録してみました。

ある日曜、アパートの郵便ポストに角4の淡いピンク色の封筒が入っていた。
骨髄バンクからだ。

7年前に骨髄バンクにドナー登録して以来、これまで機関紙しか来たことがない。
いつもの茶封筒とは、明らかに大きさも色も全く違う。

「もしや…」

予想は的中。
1枚目の書類は、「骨髄ドナーコーディネートのお知らせ」と題しており、
「あなた様と骨髄バンクの登録患者さんのHLA型(白血球の型)が一致し、
ドナー候補者のおひとりに選ばれました」との一文が。

おぉっ!とうとうドナー候補に選ばれたんだぁっ。
嬉しい。

肉親でもなければ、HLAの型は数百人から数万人に一人しか一致することはない。
全く見知らぬ人の命を救えるチャンスが、私に与えられたのだ。

そもそも、骨髄バンクにドナー登録したきっかけは献血だった。
献血マニアな私は、高校生の頃から札幌市地下街にある献血ルームに
毎月のように通ってた。

一時、献血ルームが身近にない街に住んでいた時期にやや疎遠になっていたが、
就職してからは、札幌に出掛けるたびにせっせと献血していた。
余りの熱心さ(?)に、日本赤十字社から
「血液の在庫が少ないので献血に来て下さい」
と、時折、呼び出されたりする始末(苦笑)

そんな訳で、新札幌の献血ルームに行った98年2月のこと。
壁に貼ってあった骨髄バンクのポスターを眺めていたら、
「ついでに登録しませんか?」と誘われた。
元々興味があったので、早速、登録。
献血のついでに極少量の血液を採取し、
骨髄バンクに関するビデオを視聴した…ような気がする。

単純な私は、登録したらすぐに依頼が来るかもと期待していた。
しかし、そんな連絡は全くなく、たまに届くのは機関紙のみ。
そんな期間が7年も続いた。

自分自身も殆ど忘れかけてた頃、ようやく届いたドナー候補の知らせだった。

※2 ある友人の思い出

骨髄移植のドナー候補になったと連絡があった日の夜、不意に思い出したことがある。

ある友人のことだ。

地元を離れていた大学生時代、長期休暇で実家に帰省していたときのことだった。
幼馴染から久しぶりに電話がかかってきて、突然こう言った。

「昨日、Mちゃんが死んだって知ってた?」

……えええぇぇぇっ!!

☆★☆★☆★☆★☆★

Mちゃんは、小・中と同じ学校だった。
特に仲良しって訳ではなかったが、とても記憶に残ってるクラスメートだった。

私は子供の頃、とにかく絵を描くのが好きで、幼い頃から暇さえあれば何か描いていた。
将来、絵に関することをしたい…漠然とそう思っていたりしていた。

しかし、小学4年の図工の時間、その思いは打ち砕かれる。

図工の時間、好きな物語を読んでそれを絵に描くという課題が出た。
その時の彼女の絵が今も忘れられない。
その発想、色使い、構図。
技術もさることながら、発想・想像力といった部分で郡を抜いていた。

すごい才能の持ち主だった。
とてもかなわないと思った。

☆★☆★☆★☆★☆★

喪服を持っていなかった私は、慌てて母から服を借り、
近所のセレモニーホールへ向かった。

遺影には、少し大人っぽくなった彼女がいた。

ご両親とお姉さんに、弔意を述べる。
だが、ショックで混乱していて何を言ったのか全く覚えていない。
おろおろする私に、お姉さんは穏やかに微笑みながら逆に気遣ってくれた。

二十歳になるやならずの友人の命を奪った病名が、急性白血病だった。

骨髄提供によって救えるかもしれない病名。
…もしかして、私は彼女のような人を救えるのか?
(但し、当時はまだ骨髄バンクが設立されていなかったが…)

※3 コーディネーターさん

骨髄提供のドナー候補には、担当のコーディネーターさんが付くことになっている。
読んで字のごとく、骨髄提供の全般についてコーディネートしてくれる人だ。
(そのまんまだろっ)

コーディネーターさんには、骨髄提供に関することが全て終了するまで、
何かとお世話になるらしい。

担当コーディネーターさんとのファーストコンタクトは、
骨髄バンクからの郵便が来てから5日目の土曜日だった。
その日、私はコンサドーレ札幌の試合観戦のため、福岡に行っていた。

アビスパ福岡vsコンサドーレ札幌(博多の森競技場)
羽田空港経由で福岡空港に到着し、地下鉄に向かう途中、携帯が鳴った。

…見知らぬ番号。
「骨髄バンクのTと申します」
彼女は、私の担当コーディネーターになったことを伝え、幾つかの質問をした。

特に何度も確認されたのは、「家族の同意」。
骨髄提供するためには、家族の同意というのは余程重要らしい。

その後、検査を受ける病院の希望を確認し、確認検査の日取りを決めた。
ウィークデーしか対応して貰えないので、
午後のなるべく遅い時間に設定するよう依頼する。
これなら、午後だけ有給を取れば何とかなる。

確認検査は、最初の連絡が来てから丁度1ヶ月後に設定された。

実際に提供することになったら、事故防止とか体調管理のため、
アウェイ観戦も少し控えないとならないのかな…。
そんなことを考えながら、応援した。

試合は、私が応援する選手も活躍しての、3-0の完勝だった。
幸先が良い(*^-^*)v

※4 家族の同意

さて、骨髄移植のドナー候補になったが、一抹の不安があった。
骨髄提供には、家族の同意が必須である。

正式なドナーになる前に、家族(既婚者は配偶者、未婚者は親)が同席した上で、
コーディネーターさんや医師から詳しい説明を受け、
本人と家族が同意書にサインしなければならない。

勿論、リスクについても詳しく説明されるのだが、
その段階になって、家族の同意が得られずに撤回してしまうドナー候補が以外と多いらしい。

自分は、一応、両親から(かなり強引に)同意を得ていたものの、
当初、母はかなり難色を示していた。
直前になって撤回されないように、とにかく説得しなくては。
万が一、提供できなければ、患者さんに多大な迷惑を掛けてしまうかもしれない。

骨髄バンクには、家族に資料やビデオを貸出してくれるシステムがある。
私は、その資料を家族宛に送って貰うように手配していた。
それが届いて数日経った頃を見計らって、母に電話した。

「骨髄バンクからそっちに資料送って貰ったけど、見てくれた?
…やっぱり、まだ、同意したくない?(おそるおそる)」
「いいよ(あっさり)」

えぇぇぇっ!?
一体、どういう心境の変化なのか?

どうやら母は、看護師長の経験を持つ友人に相談したそうだ。
で、いきなり怒られたらしい。


なんで賛成してあげないの?
親のあんたが応援してあげなくてどうすんの?
心配しないで大丈夫だから…等など

私にとって、思わぬ援護射撃だった。初めて賛成してくれる人がいた。
凄く嬉しかった。

骨髄提供によって助かる命があると言っても、所詮は他人事。
どこの誰だか分からない赤の他人より、
やはり、自分の家族に「何か」があっては嫌だと感じるのは、
正直な気持ちだろう。

しかし、実際は、提供者に「何か」が起きる可能性はかなり低い。
必要以上に、おそれることはない。

自分のほんのわずかな勇気で誰かを助けることが出来るのなら、
…私は前に進みたい。

私は、母の友人に次の言葉をお伝えしたい。
賛成して下さって、しかも、母を説得して下さって、
本当にありがとうございました。

※5 確認検査

骨髄提供のドナー候補としての確認検査の日が来た。

コーディネーターさんと担当医師から骨髄提供についての説明を受け、
簡単な診察と血液検査がある。

午前で仕事を終え、JRで札幌へ向かう。
病院の正面玄関で、コーディネーターさんと待ち合わせた。

約束の時間ぴったりにあらわれた担当コーディネーターさんは、
私より年上の女性で、柔らかい喋り方をされる方だった。

診察室で、まずはコーディネーターさんから骨髄提供について説明を受けた。
ほぼ終わりかけた頃、担当医師がようやく現れた。

最新のデータについて、別刷りの資料が渡される。
移植事例の増加に伴い事故事例数も増えたので、その分が追加されたのだ。
「事故事例が増えると、やはり躊躇する人も増えるんです」と、
コーディネーターさんは苦笑した。

続いて医師からの問診。
そして採血。
しかし、前の人が血が出にくい体質のようで、かなり待たされてしまった。
担当医師が言うには、血液の病気に掛かると血管が細くなり、
採血が難しくなることが多いそうだ。
ひどい人だと、普通の人の10分の1くらいまで血管が細くなると言っていた。

心が痛む。
骨髄移植を希望されている方は、当然、血液の病気。
きっと同じように、採血ひとつでも辛い思いをされているのだろう。
何としても元気になって欲しい。
できれば、私がそれに協力したい。

確認検査が終了し、交通費を受領して、
コーディネーターさんとは病院の正面玄関で別れた。
別れ際、私は彼女にこう言った。

「また、お会いしたいですね」

通常、ドナーに決定したか否かの連絡は、電話か手紙で通知される。
次にコーディネーターさんと、直接、会えるのは、
それは、私が正式にドナーに選ばれた時だけである。

※6 条件

骨髄提供のドナー候補となり、確認検査を受診したが、
私は急に気持ちが落ち込んでしまった。

不安だからではない。
提供できない可能性の方が高いからだ。

私は単純に、ここまで来たらかなりの確率で提供できるものだと思い込んでいた。

しかし、コーディネーターさんの話では、余り確率は高くないらしい。
彼女の印象では、確認検査を受けた人の7人に1人位の確率らしい。
(後で調べたら、実際は18%位)

今の段階では、1人の患者さんに対してドナー候補が5人までいる可能性が
あるそうだ。
「ドナー候補」のそれぞれが確認検査を受け、最も条件の良い人が、
正式な「ドナー」となる。

しかし、私にはハンデがある。
体重が少な過ぎるのだ。

採取される骨髄の量は、患者さんの体重によって決まる。
体重1kgあたり15ccが目安になる。
例えば、患者さんの体重が70kgなら1,050ccとなる。

一方で、ドナーが提供できる骨髄の量も、厳格に決められている。
聞き忘れてしまったが、後で調べたら、
体重1kgあたり最大でも20ccという説があった。

そうなると、私が提供できる相手は65kg以下。
つまり、私が提供できる相手は、子供か小柄な患者さんに限られてしまう。
もしも相手が大柄な患者さんだったら、門前払いだ。

仮に提供できる相手だったとしても、
複数のドナー候補がいれば、より条件の良い人が選定される。

担当医師には、
「自分なら、体重ぎりぎりの痩せっぽちよりも、頑健な若い男性を選ぶ」
ときっぱり言われてしまった。

そりゃそうだ。
私が提供を受ける立場なら、きっと同じことを考える。
自分の出る幕ではないかもしれない…orz

いや、より良い条件のドナーさんがいらっしゃれば、
それが患者さんにとって一番いいことなんだったことは分かってるんですけどね。

※7 本当に危険なのか?

骨髄提供について、何人かの友人に相談してみたが、
その時に、彼らが一様に心配するのは、骨髄提供に伴う危険性である。

コーディネーターさんや担当医師は、危険性について充分説明してくれた。
骨髄液の採取は、ドナーに全身麻酔をした上で、
皮膚の上から骨盤あたりに注射針を刺して吸引する。
(決して、「脊髄」を削る訳ではない。←以外と勘違いしてる人がいるらしい)
全身麻酔をしなければならないこともあり、やはり「絶対安全」とは言い難い。

しかし、本当に皆が心配するほど危険なのか?

骨髄バンクが平成4年に設立されてから、
平成16年度までの移植事例が6,339件。
平成16度だけでは、832件。
骨髄バンクでは、ドナーに万一のことがあった場合のために
団体障害保険に加入しているが、
保険が適用されるような症状が出た例は、これまでにたったの64件。
つまり、確率にしてわずかに1%。

しかも、症状の多くは数日間で収まる一過性のものであり、
日常生活に支障のでる後遺症が残った事例は、まだない。
事故事例が増えたのは、単純に、移植事例がここ数年で急激に増えているからだ。

一方、私達が何気なく日常生活を送っていても、
何らかの事故に遭遇する可能性は常に付きまとっている。
そんなことを考えると、
「全く危険が無い訳ではないが、滅多に起こらないレベル」
と私は考える。

もし事故に会ったら…という心構えは、当然しておかなければならないが、
必要以上におそれることはない。

勿論、不安に思う人の気持ちを否定するつもりはない。

日本では、まだインフォームドコンセント(説明と同意)は馴染みが薄いが、
骨髄移植では完全に導入されている。
情報公開されているが故に、良くない事例も全て公開される。
だから、ついつい危険性ばかりに目が行ってしまい、
必要以上に不安を感じてしまうのかもしれない。

ホントは、そんなに心配するほどのことではないですよ〜
と、皆様にお伝えしたい。

※8 心境の変化

骨髄バンクからドナー候補になったと連絡が来た当初、私は
「絶対、提供したい!」
と強く思ったものだ(単純お馬鹿だから)

しかし、ここに来てちょっと心境の変化が出てきた。

「患者さんにとって、より良い条件の骨髄移植であって欲しい」
「他に条件の良いドナーがいれば、そちらから提供された方が良い」
…ま、言うまでもないことなんですが。

とにかく、数百人〜数万人に一人という確率で
HLA(白血球の型)が適合したという、
「あなた」に元気になって欲しい。

今なら、素直にそう思う。

でも、できることなら、
そのお手伝いをさせて貰えるのが私であったなら、もっと嬉しいのだけど。


余談だが、白血球の型が一致しても、必ずしも血液型も一緒という訳ではないそうだ。
(前処理が必要になるので、できれば移植は同じ血液型の方が望ましい)

しかし、移植を受けた患者さんは、ドナーと全く同じ血液型になってしまう。
何故なら、血液を作る骨髄を移植するのだから。

この世に自分と全く同じ血液型の人…。
ちょっと不思議な気もする。

※9 以外と困難なこと

骨髄バンクに登録している人は、日本国内に約23万人いる。
一方、提供を希望している患者さんは3千人弱。

しかし、HLA(白血球の型)が一致する人は、
数百人から数万人に一人の割合でしかない。
ここ数年は、年間千件近くの骨髄移植が行われているが、
移植まで進めた患者さんは、約35%しかいないのだ。

しかし、本当はもっとたくさん行えたかもしれないのだ。
HLAが一致したにも関わらず、心ならずも提供出来なかったドナー候補は意外と多い。

若いドナー候補の場合、大抵、親が反対する。
親が同意しても、一人暮らしで不摂生していることが多く、健康診断で引っかかる。
働き盛りの年代は、仕事が忙しくて休めない。
仕事を休める余裕が出てきた管理職は、既に成人病になっている。

誰かを救いたいと願う人は、その環境を整えられず、
人を救える環境にある人は、家族の反対にあったり、健康に問題を抱えてしまっている。

さて、私の場合は…?

理解ある親を持ったおかげで、家族の同意を得られた。
理解ある上司を持ったおかげで、何とか仕事の都合も付けられそうだ。

後は、自分の健康だけか。
確認検査の結果が待ち遠しい。

※10 最終結果

骨髄バンクから、検査結果の電話連絡が来た。
それは、コンサドーレ札幌の試合の真っ最中だった。

平日ナイター、横浜FC戦(札幌ドーム)

キング・カズこと三浦一良が移籍したばかりで、
彼目当てに2万人を越える観客が入っていた。
試合開始草々に先制したものの、前半終了間際に追いつかれ、嫌なムードで折り返す。

後半20分過ぎに、その電話は来た。

「骨髄バンクのコーディネータのTです」
ホームゴール裏の熱烈サポーター席で応援していたため、
周囲の喚声で殆ど電話の声が聞き取れない。
慌てて観客席の階段を駆け上がり、2階コンコースに移動する。
もう一度、電話の声に耳を傾ける。

「残念ですけど、患者さんの都合によりコーディネートが終了しました」

…私は、ドナーには選ばれなかったのだ。
力が抜けた。
思わず、冷たい床に座り込んでしまった。

患者さんの都合?
…もしかして容態が急変して移植が受けられなくなったのか!?
嫌な想像が頭の中をよぎる。
でも、骨髄バンクには守秘義務があり、
患者さんの情報を一切教えてくれないので、知る術はない。

しばらく座り込んでいたが、ようやく、気を取り直し、ゴール裏に戻る。

患者さんのことを気にしても、今の私にはどうすることもできない。
私の他に、もっと条件の良いドナーが見つかったと、信じるしかない。

今現在の私にできることは、自分が応援しているチームの勝利を信じて応援すること。
しかし、懸命に応援したものの、結局、逆転されて1‐2で敗戦。

試合後、札幌ドーム周辺は激しく雷が鳴り響き、土砂降りになっていた。

※11 献血と臓器移植意志表示カード

数日後、正式な文書で、骨髄移植のドナーに選ばれなかったとの書類が来た。
既に電話連絡を受けていたので、気落ちすることはなかった。

あっけないものだ。

患者さんのことが気に掛かるが、
私よりも条件の良いドナーが見つかったと信じるしかない。
早く良くなって欲しい、心からそう願う。

夏季休暇に久しぶりに札幌で献血してきた。
ドナー候補に選ばれている間は、献血を控えるように言われていたので、
久しぶりだ。

札幌駅からすぐそばのアスティ45の7階にある献血ルーム。
予め成分献血の予約をしておいたので、すぐに献血できた。
献血中は、TVを見たり、雑誌を読んだり、ジュースを飲んだり、
くつろいだ雰囲気で過せる。

献血ルームで、もうひとつの目的だった「臓器提供意志表示カード」を貰った。

以前から興味があったが、自分はまだ持っていなかった。
これを機会に、自分が脳死になったら臓器提供することを
意志表示しようと思ったのだ。

いや、このカードを使う機会なんてものは、来て欲しくないんだけどね。
でも、この世の中、自分がいつどうなるかなんて、分からないし、
いつどこの誰にどんな風にお世話になるかなんて、分からないからね。

このカードを使うとき、家族にはとても辛い思いをさせることになるんだけど、
誰かが誰かのために、役に立てるってことは、とても良いことだと思うんですよ。
ただ灰になってしまうのではなく、誰かの命を助けられるってのは、
とても素晴らしいことだと思うんですよ。

だから、もし万が一の時は、反対しないで下さいね。

この時の献血で丁度50回目に達したので、記念の杯を貰った。
今、棚に飾っている。色んな思い出と共に…。

記念の杯

※12 「メンバーが、足りない」

05年の夏から、骨髄バンクのCMに元サッカー日本代表の井原正巳氏が出演している。
公共広告機構(AC)のキャンペーンである。

「メンバーが、足りない」
とは、このキャンペーンで採用されているメーンタイトルである。
ご覧になった方もいらっしゃるだろう。

骨髄バンクでは、ドナー登録者30万人を目指している。
30万人の登録者がいれば、移植希望者のほぼ100%が
ドナー候補を見つけることができる。

しかし、現在の登録者は、約23万人。
しかも、移植希望者の約80%がドナー候補者を見つけることはできているが、
実際に移植まで進むのは約35%にとどまっている。
ドナーの安全や健康を最優先するためだ。

骨髄移植を希望している患者さんは、全国にまだ3千人近くもいらっしゃる。
ドナー登録者がもっと増えれば、移植を受けられる患者さんは、もっと増える。

骨髄提供は、善意の行動である。
確率はかなり低いとはいえ、事故が絶対に起こらないとは言い切れない。

だから、決して無理強いはしない。
でも、やはり、私はこう言いたい。

「メンバーが、足りない」

※13 最後に

ドナー候補に選ばれたことは、私にとってある種の転機になったようだ。
だからこそ、ここまで長々と記録してきたのだが、
最後にもうひとつだけ、記しておきたいことがある。

骨髄提供について相談した人達は、皆一様にとても心配してくれた。
私は自分の信じることをしていたので、不安は感じなかったが、
その分、周囲の人々がまるで自分のことのように心配してくれた。

ありがとうございました。

しかし一人だけ、私を信じて無条件に賛成してくれた人がいた。
…とても嬉しかった。

ありがとう。

そして、この機会を与えてくれた患者さんへ。
あなたが、一日でも早く健康を回復することを、心よりお祈り申し上げます。

本当に、ありがとうございました。

半落ち

前回で最後…と言いつつ、骨髄ドナー候補体験記の「おまけ」。
久しぶりに実家に帰ったある日の出来事。

実家の茶の間で、買ったばかりの小説を、
本屋のブックカバーを付けたままで読んでいた。

  半落ち

映画化されたので、ご存知の方も多いだろう。
この小説の中には、骨髄移植が効果的に扱われている。

その小説を丁度読み終わったところで、父が珍しく、
「この本、読んでみるか?」
と、本屋のブックカバーを付けたままの本を差し出した。
カバーをめくると、そこには…

  半落ち

…何も言わずに、ありがたく頂戴しましたよ。

多分、骨髄移植について扱われてるので、
ドナー候補を体験した私にも読ませたいと思ったのでしょう。
普段は無口な父が、とても可愛く思えた。
ありがとう。
面と向かっては言えませんが(笑)

<完>
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